入浴惨劇
暑い。

頭の沸き加減も暑さと共に上昇中。
だから本日の以下の長文は読まない方が身のためです。
暑中お見舞い申し上げ。
【入浴惨劇】
ウォッシャブルスーツに魅かれて購入するくらい、夏の暑さはいいとして、汗の匂いが気になる。洗えるのもならば洗いたい。私は「洗う」という行為が好きだ。もちろん、自分の身体も。
夏は朝も夕方も、できればお昼にもシャワーを使いたいくらい、汗のべたべた感に包まれているのが嫌だ。今日もべたべたになってしまった身体を洗う為に浴室へと向かう。
夏でも我が家では湯船に浸かる習慣がある。今日も丁度いい湯加減の透明でピカピカなお湯が用意されていた。いつもお湯を準備してくれているのは私の母で、仕事しかしていない私は家事全般を母にまかせきりである。それがいいか悪いかについては議論してもどうしようもないことだ。悪いと言われてもできないものはできない。否定されようがされまいができないものはやりようがないのだから、私はこのまま生きると決めている。
表面の汗を洗い流してからゆっくりと湯船に浸かる。もう少し温いお湯が私は好みだが、一番風呂をいただいているのだから我慢しようと思った時だった。
「ねぇ、コレ、忘れてるよ?」
と、脱衣所で母の声がした。
はて、私は何か忘れ物をしただろうか。いつも入浴の際には洗髪後に頭に巻くタオルのみを持って入るはずだし、そのタオルは目の前にある。
「え?何を忘れてるって?」
と、返事をすると同時に、浴室の扉が少しだけ開いた。白く蒸気に満ちた空気が吸い込まれるように外へ逃げ出すのがもったいないような気分になる。少しだけ開いている扉の隙間をじっと見つめながら、
「だから何を忘れたって?、何にも忘れものなんかないよ。タオルも持って入ったし。」
と、不機嫌そうに言うと、母はくすくす笑いながら
「いつまでたってもバカな子だね、大事なものをすぐ忘れる。」
と、扉から手だけをニョキっと入れて忘れ物だという物体を浴室の中の私に差し出した。差し出された物体は、今にもドロリと溶けだしそうな生のタコであった。あまりの出来ごとに私は驚き過ぎて声が出ない。なぜ、生のタコを入浴に使用するのだろう。どうやって使用するのかもわからない。
私は黙ってそのタコを見つめることしかできなかった。
すると母は、
「早く取ってよ、死んじゃうじゃない。」
と、私がもたついているのがとても迷惑であるかのような音を出す。
「あ、ああ、うん、ごめん。」
ザブリと湯船から出て、ほとんど条件反射のように受け取ってしまった。
受け取ったタコはぬめっとした粘り気のある液体を身体から分泌させていて、一瞬気持ち悪さにゾッと寒気が走った。しかし受け取ってしまった以上これをどうにかしなければいけないと、置き場所を探す。置き場所といってもここは浴室であるから、湯船の中か、洗面器くらいしか置けるところがない。湯船に入れたらやっぱりすぐに死んでしまうのだろうから洗面器に入れておくしか方法はなく、そのままそこにある洗面器の中にタコをゆっくり入れた。
タコは狭い洗面器の中でたくさんある足をぐにょぐにょとくねらせて、洗面器内部に吸盤で貼りついていく。その絵はなんとも不気味で気持ちが悪く、アメリカ人がこのタコを悪魔だといって嫌う気持ちが理解できた。タコはもしかしなくとも気持ちの悪い生物だ。
しかし、このタコをどのようにしてここで使えばよいのか少しも見当がつかない。母は先ほど私がこれを「忘れた」と言っていて、普段私がこれを入浴に使用していたかのような口ぶりであったが、私にその記憶は一切ない。これは一体どういうことだろうか。
この状況を冷静に分析すると、どう考えても私は重度な記憶障害を起こしていると考えられる。一般家庭の普通に起こりうる日常の事柄が分からなくなってしまうほどの病気であることは確かだが、いつどのようにその病気にかかってしまったのかがわからない。これは素直に親に聞いてもよいことなのだろうか。それともそんなことを聞いてしまったら親はショックだろうか。できるだけ親には精神的負担は与えたくないので、もうしばらくこのタコの使い道について考えてみようと思った。
とりあえず、このタコにしか見えない物体の使い道は、このタコをどうにかいじくっているうちに思い出すかもしれないと、触ってみる。
気持ち悪い。
どうにもコレをどうしたいとも思えない。
しかしもっと冷静に、客観的に考えてみようと努めた。
ここは浴室であり、身体を洗う場所であるから、身体を洗う行為に対して使用する確率が高いのではないか…とか、湯船があるということは、入浴剤的な使用方法も考えられるが、そもそもタコはお湯に弱いのではないかと考えると「早くしないと死んじゃう」という母の言葉から、死んでしまってはいけないものだと推測できるので、お湯に入れて使用する確率は低い。
じゃあやっぱりコレで身体を洗う?
そんな恐ろしいことを私は毎日していたのか?
深く考え込んでもさっぱり思い出す気配がないし、早くしないと死んでしまう。この浴室の蒸気でタコはもう弱ってきている。母の言い回しだとこのタコは生きているから「いいもの」であり、死んでしまっては「よくないもの」だ。それにタコは死骸の美しさレベルはたぶん低い。
仕方ない。勇気を振り絞ってやってしまおう。やれそうなことを全部。
私は洗面器の中でぐねぐねと動き回るタコの首の部分を右手でガシっと掴み、左手で洗面器の淵を持ち、吸いついてぴったりとくっついている吸盤を無理やりひきはがした。けっこうな力を入れないと吸盤ははがれなかった。
そして右手にぶらりとしたタコを持ち、おそるおそる左腕に乗せた。タコの温度を肌で感じる瞬間、ゾクゾクと鳥肌になる。そんな鳥肌とドキドキは一瞬にして恐怖に変わった。タコが素早く私の左腕に巻き付き、ものすごい勢いで吸盤をぺたぺたと張り巡らせたのだ。
怖っ、怖いぞ、ヤバイ、どうしよう!
恐ろしくなった私は左腕に巻きついてしまったタコをひきはがそうと力を込めてタコの首根っこを持ち上げようとする。しかしタコの吸盤はビクともせず、異様に深く吸いついてくるのだ。
もしかしたらヤバイことをしてしまったのではないかと心臓がドクドクいいはじめた。吸盤の吸いつきがだんだんと強くなり、確実に痛みがある。痛い、このままでは皮膚がそぎ取られてしまうのではないかと思うほど痛くなってきた。
しかし慌ててはダメだ。こんな時は慌てふためくと殺られるのがどんな映画でも鉄則だ。とにかくこのタコをはがそうと考え、先ほどよりも力を入れてタコの首根っこを持つ手に集中して力を込める。まるでエイリアンと戦っているかのように必死の形相でタコと格闘した。
怖いと思う自分の心と戦って勝てば大概の事はやり遂げられるはず。
タコに殺やれて死ぬわけにはいかない、タコは本来人間が食物にしている生物なんだからそんなものに殺られるわけにはいかないんだ。
タコの首と思えるあたりに渾身の力を込めた。ぐにょり…ブチブチッ…場合によっては気持ちいい何かがちぎれる音。そしてタコは首から下を残して、頭のように見える部分だけ私に引きちぎられた。私の手の中にはぐにょぐにょなタコの頭の肉だけがたぷたぷと小刻みに蠢いている。気持ちが悪くなって床へ投げ捨てた。残された足部分はそれらを繋げていた根っこ部分がなくなり、まるで喜ぶようにものすごい速さで私の身体を這いずりまわって、背中や腹や足にまで散らばっていく。吸いつかれている部分は噛みつかれているように痛く、このままでは確実にこのタコの足に食べられてしまうと思った。
私は悲鳴を上げつつも、どうにか肩のあたりに吸いついていたタコの足を捕まえてそしてそいつに思い切り噛みついてやった。すると他の部分に吸いついている足の吸いつきが弱くなり、こいつらはバラバラでも連動していることがわかった。この一か所をどうにか叩きのめせば他の箇所にもダメージを与えられるということだ。だったらさっき切り離した頭のような部分を攻撃すればいいのではないだろうか。頭はその辺に放り投げてしまったが、一体どこへ行ったのだろうと辺りを見回すと、あんなにたぷたぷでぐにょぐにょだった頭は浴室の壁をアメーバのようによじ登り、私の手が届かない天井へと移動していた。
やられた。あんなところに移動されてはどうにもできない。やはり一か所の足を選んで食いちぎってやるしかない。しかし、タコの足は8本もあり、1本と戦っていても残りの7本が私を容赦なく攻撃する。しかも私の身体を好き勝手に這いずりまわっているということは、最悪、エロ系の惨劇にならないだろうかと不安になる。タコは嫌だ。軟体野郎と絡み合う趣味はない。昔、埼京線で外国人の痴漢にあった時のことを思い出した。怖くておぞましくて身動きのできない苦しい感覚。あの時、どうなってもいいからという覚悟を決めてもっと暴れてやればよかったと後悔する気持ちまで思い出す。そして今またこのおぞましさに包まれながら、吸いつかれる痛みと気持ち悪さに耐えつつ、戦い抜くことができるだろうか。
それでもやるしかない。私はこんなところでタコに殺られるわけにはいかないんだ。普段私がどんなふうにこのタコを使用していたのかはまだ謎ではあるけれど、私は常にこのタコに勝っていたはずだ。どうにかなるはずだ。
しばらくの間繰り広げられた死闘。私はどうにか痛みに耐え、タコの足をこれでもかと言うほど食いちぎっていた。飲み込みたくはないので、食いちぎり、ペッと吐き出す…そんな作業を繰り返しつつ、吐き出されたタコ肉の欠片を目で追うと、ビチビチと2、3度踊った後にパタリと生気を失っていくのがわかった。
だんだんとタコの吸いつきが弱まっていく。吸いつきが弱まったところですかさず身体から剥がし、とどめを刺した。全てのタコの足はどれも動かなくなり、残すは天井に張り付いた頭部のみとなったわけだが、よく考えたら頭部は気持ち悪いだけであって戦闘能力があるとは思えない。吸盤もなければ口があるわけでもないのだから、最悪ほっておいても大丈夫だろうと思ったその時だった。
天井のタコは突然もごもごと身体に不気味な凹凸を作ってからミチミチという不快な音を立てて細かく分裂を始めた。30個くらいに分裂した肉片は個々で真ん丸な球体へと変化していく。これから一体何が起きるのだろうととてつもない不安が襲ってはくるけれど、だからこそ目が離せない。
球体になっても粘りの成分からか、その肉片は下へは落下せず天井にくっついたままだ。そしてゆっくりと少しづつ私の真上へと移動してくる。なんだか嫌な予感がした。そして私の真上に集まったその球体な肉片は一斉に私をめがけてものすごい勢いで落ちてきたのだ。
痛すぎる衝撃に思わず目を細めてしまう。肉片は私に当たるとピンポン玉のように跳ね返り、浴室中を駆け巡るように壁や天井にアタックした後、お湯の張ってある浴槽に次々と落ちて行った。ジャボン、ジャボンという音を立てて勢いよくお湯に落ちていく。全ての肉片が浴槽の中に入ってしまうと、辺りはとても静かになり、肉片がお湯に溶けていく小さな音だけがチリチリと響き渡っていた。
これで終わったのだろうか。
これが使い方なのだろうか。
一体何がしたくて、どれが目的なのかが一つも分からない。
そして、タコがお湯に溶けるということを初めて知った…。
頭部の最期の攻撃はたぶん、足をやられてしまった腹いせだろう。ただ死ぬだけっていうのも面白くないっていうその根性は認めてあげなくもないが、かなり痛かったから簡単に許す気にはなれないけれど、見習おうとは思った。
そして浴室の独特な熱気の中、私は静かに茫然としていた。
するとドアの向こうで母の声がした。
「ねぇ、これもいる?」
と、聞こえたと同時にまたドアが少しだけ開き、疲れ果てた私に差し出されたのは大きなイカだった。
そして、もう勘弁してくれ…と、思ったことろで夢は覚めたのであった。
くだらなくてごめんなさい<(_ _)>

頭の沸き加減も暑さと共に上昇中。
だから本日の以下の長文は読まない方が身のためです。
暑中お見舞い申し上げ。
【入浴惨劇】
ウォッシャブルスーツに魅かれて購入するくらい、夏の暑さはいいとして、汗の匂いが気になる。洗えるのもならば洗いたい。私は「洗う」という行為が好きだ。もちろん、自分の身体も。
夏は朝も夕方も、できればお昼にもシャワーを使いたいくらい、汗のべたべた感に包まれているのが嫌だ。今日もべたべたになってしまった身体を洗う為に浴室へと向かう。
夏でも我が家では湯船に浸かる習慣がある。今日も丁度いい湯加減の透明でピカピカなお湯が用意されていた。いつもお湯を準備してくれているのは私の母で、仕事しかしていない私は家事全般を母にまかせきりである。それがいいか悪いかについては議論してもどうしようもないことだ。悪いと言われてもできないものはできない。否定されようがされまいができないものはやりようがないのだから、私はこのまま生きると決めている。
表面の汗を洗い流してからゆっくりと湯船に浸かる。もう少し温いお湯が私は好みだが、一番風呂をいただいているのだから我慢しようと思った時だった。
「ねぇ、コレ、忘れてるよ?」
と、脱衣所で母の声がした。
はて、私は何か忘れ物をしただろうか。いつも入浴の際には洗髪後に頭に巻くタオルのみを持って入るはずだし、そのタオルは目の前にある。
「え?何を忘れてるって?」
と、返事をすると同時に、浴室の扉が少しだけ開いた。白く蒸気に満ちた空気が吸い込まれるように外へ逃げ出すのがもったいないような気分になる。少しだけ開いている扉の隙間をじっと見つめながら、
「だから何を忘れたって?、何にも忘れものなんかないよ。タオルも持って入ったし。」
と、不機嫌そうに言うと、母はくすくす笑いながら
「いつまでたってもバカな子だね、大事なものをすぐ忘れる。」
と、扉から手だけをニョキっと入れて忘れ物だという物体を浴室の中の私に差し出した。差し出された物体は、今にもドロリと溶けだしそうな生のタコであった。あまりの出来ごとに私は驚き過ぎて声が出ない。なぜ、生のタコを入浴に使用するのだろう。どうやって使用するのかもわからない。
私は黙ってそのタコを見つめることしかできなかった。
すると母は、
「早く取ってよ、死んじゃうじゃない。」
と、私がもたついているのがとても迷惑であるかのような音を出す。
「あ、ああ、うん、ごめん。」
ザブリと湯船から出て、ほとんど条件反射のように受け取ってしまった。
受け取ったタコはぬめっとした粘り気のある液体を身体から分泌させていて、一瞬気持ち悪さにゾッと寒気が走った。しかし受け取ってしまった以上これをどうにかしなければいけないと、置き場所を探す。置き場所といってもここは浴室であるから、湯船の中か、洗面器くらいしか置けるところがない。湯船に入れたらやっぱりすぐに死んでしまうのだろうから洗面器に入れておくしか方法はなく、そのままそこにある洗面器の中にタコをゆっくり入れた。
タコは狭い洗面器の中でたくさんある足をぐにょぐにょとくねらせて、洗面器内部に吸盤で貼りついていく。その絵はなんとも不気味で気持ちが悪く、アメリカ人がこのタコを悪魔だといって嫌う気持ちが理解できた。タコはもしかしなくとも気持ちの悪い生物だ。
しかし、このタコをどのようにしてここで使えばよいのか少しも見当がつかない。母は先ほど私がこれを「忘れた」と言っていて、普段私がこれを入浴に使用していたかのような口ぶりであったが、私にその記憶は一切ない。これは一体どういうことだろうか。
この状況を冷静に分析すると、どう考えても私は重度な記憶障害を起こしていると考えられる。一般家庭の普通に起こりうる日常の事柄が分からなくなってしまうほどの病気であることは確かだが、いつどのようにその病気にかかってしまったのかがわからない。これは素直に親に聞いてもよいことなのだろうか。それともそんなことを聞いてしまったら親はショックだろうか。できるだけ親には精神的負担は与えたくないので、もうしばらくこのタコの使い道について考えてみようと思った。
とりあえず、このタコにしか見えない物体の使い道は、このタコをどうにかいじくっているうちに思い出すかもしれないと、触ってみる。
気持ち悪い。
どうにもコレをどうしたいとも思えない。
しかしもっと冷静に、客観的に考えてみようと努めた。
ここは浴室であり、身体を洗う場所であるから、身体を洗う行為に対して使用する確率が高いのではないか…とか、湯船があるということは、入浴剤的な使用方法も考えられるが、そもそもタコはお湯に弱いのではないかと考えると「早くしないと死んじゃう」という母の言葉から、死んでしまってはいけないものだと推測できるので、お湯に入れて使用する確率は低い。
じゃあやっぱりコレで身体を洗う?
そんな恐ろしいことを私は毎日していたのか?
深く考え込んでもさっぱり思い出す気配がないし、早くしないと死んでしまう。この浴室の蒸気でタコはもう弱ってきている。母の言い回しだとこのタコは生きているから「いいもの」であり、死んでしまっては「よくないもの」だ。それにタコは死骸の美しさレベルはたぶん低い。
仕方ない。勇気を振り絞ってやってしまおう。やれそうなことを全部。
私は洗面器の中でぐねぐねと動き回るタコの首の部分を右手でガシっと掴み、左手で洗面器の淵を持ち、吸いついてぴったりとくっついている吸盤を無理やりひきはがした。けっこうな力を入れないと吸盤ははがれなかった。
そして右手にぶらりとしたタコを持ち、おそるおそる左腕に乗せた。タコの温度を肌で感じる瞬間、ゾクゾクと鳥肌になる。そんな鳥肌とドキドキは一瞬にして恐怖に変わった。タコが素早く私の左腕に巻き付き、ものすごい勢いで吸盤をぺたぺたと張り巡らせたのだ。
怖っ、怖いぞ、ヤバイ、どうしよう!
恐ろしくなった私は左腕に巻きついてしまったタコをひきはがそうと力を込めてタコの首根っこを持ち上げようとする。しかしタコの吸盤はビクともせず、異様に深く吸いついてくるのだ。
もしかしたらヤバイことをしてしまったのではないかと心臓がドクドクいいはじめた。吸盤の吸いつきがだんだんと強くなり、確実に痛みがある。痛い、このままでは皮膚がそぎ取られてしまうのではないかと思うほど痛くなってきた。
しかし慌ててはダメだ。こんな時は慌てふためくと殺られるのがどんな映画でも鉄則だ。とにかくこのタコをはがそうと考え、先ほどよりも力を入れてタコの首根っこを持つ手に集中して力を込める。まるでエイリアンと戦っているかのように必死の形相でタコと格闘した。
怖いと思う自分の心と戦って勝てば大概の事はやり遂げられるはず。
タコに殺やれて死ぬわけにはいかない、タコは本来人間が食物にしている生物なんだからそんなものに殺られるわけにはいかないんだ。
タコの首と思えるあたりに渾身の力を込めた。ぐにょり…ブチブチッ…場合によっては気持ちいい何かがちぎれる音。そしてタコは首から下を残して、頭のように見える部分だけ私に引きちぎられた。私の手の中にはぐにょぐにょなタコの頭の肉だけがたぷたぷと小刻みに蠢いている。気持ちが悪くなって床へ投げ捨てた。残された足部分はそれらを繋げていた根っこ部分がなくなり、まるで喜ぶようにものすごい速さで私の身体を這いずりまわって、背中や腹や足にまで散らばっていく。吸いつかれている部分は噛みつかれているように痛く、このままでは確実にこのタコの足に食べられてしまうと思った。
私は悲鳴を上げつつも、どうにか肩のあたりに吸いついていたタコの足を捕まえてそしてそいつに思い切り噛みついてやった。すると他の部分に吸いついている足の吸いつきが弱くなり、こいつらはバラバラでも連動していることがわかった。この一か所をどうにか叩きのめせば他の箇所にもダメージを与えられるということだ。だったらさっき切り離した頭のような部分を攻撃すればいいのではないだろうか。頭はその辺に放り投げてしまったが、一体どこへ行ったのだろうと辺りを見回すと、あんなにたぷたぷでぐにょぐにょだった頭は浴室の壁をアメーバのようによじ登り、私の手が届かない天井へと移動していた。
やられた。あんなところに移動されてはどうにもできない。やはり一か所の足を選んで食いちぎってやるしかない。しかし、タコの足は8本もあり、1本と戦っていても残りの7本が私を容赦なく攻撃する。しかも私の身体を好き勝手に這いずりまわっているということは、最悪、エロ系の惨劇にならないだろうかと不安になる。タコは嫌だ。軟体野郎と絡み合う趣味はない。昔、埼京線で外国人の痴漢にあった時のことを思い出した。怖くておぞましくて身動きのできない苦しい感覚。あの時、どうなってもいいからという覚悟を決めてもっと暴れてやればよかったと後悔する気持ちまで思い出す。そして今またこのおぞましさに包まれながら、吸いつかれる痛みと気持ち悪さに耐えつつ、戦い抜くことができるだろうか。
それでもやるしかない。私はこんなところでタコに殺られるわけにはいかないんだ。普段私がどんなふうにこのタコを使用していたのかはまだ謎ではあるけれど、私は常にこのタコに勝っていたはずだ。どうにかなるはずだ。
しばらくの間繰り広げられた死闘。私はどうにか痛みに耐え、タコの足をこれでもかと言うほど食いちぎっていた。飲み込みたくはないので、食いちぎり、ペッと吐き出す…そんな作業を繰り返しつつ、吐き出されたタコ肉の欠片を目で追うと、ビチビチと2、3度踊った後にパタリと生気を失っていくのがわかった。
だんだんとタコの吸いつきが弱まっていく。吸いつきが弱まったところですかさず身体から剥がし、とどめを刺した。全てのタコの足はどれも動かなくなり、残すは天井に張り付いた頭部のみとなったわけだが、よく考えたら頭部は気持ち悪いだけであって戦闘能力があるとは思えない。吸盤もなければ口があるわけでもないのだから、最悪ほっておいても大丈夫だろうと思ったその時だった。
天井のタコは突然もごもごと身体に不気味な凹凸を作ってからミチミチという不快な音を立てて細かく分裂を始めた。30個くらいに分裂した肉片は個々で真ん丸な球体へと変化していく。これから一体何が起きるのだろうととてつもない不安が襲ってはくるけれど、だからこそ目が離せない。
球体になっても粘りの成分からか、その肉片は下へは落下せず天井にくっついたままだ。そしてゆっくりと少しづつ私の真上へと移動してくる。なんだか嫌な予感がした。そして私の真上に集まったその球体な肉片は一斉に私をめがけてものすごい勢いで落ちてきたのだ。
痛すぎる衝撃に思わず目を細めてしまう。肉片は私に当たるとピンポン玉のように跳ね返り、浴室中を駆け巡るように壁や天井にアタックした後、お湯の張ってある浴槽に次々と落ちて行った。ジャボン、ジャボンという音を立てて勢いよくお湯に落ちていく。全ての肉片が浴槽の中に入ってしまうと、辺りはとても静かになり、肉片がお湯に溶けていく小さな音だけがチリチリと響き渡っていた。
これで終わったのだろうか。
これが使い方なのだろうか。
一体何がしたくて、どれが目的なのかが一つも分からない。
そして、タコがお湯に溶けるということを初めて知った…。
頭部の最期の攻撃はたぶん、足をやられてしまった腹いせだろう。ただ死ぬだけっていうのも面白くないっていうその根性は認めてあげなくもないが、かなり痛かったから簡単に許す気にはなれないけれど、見習おうとは思った。
そして浴室の独特な熱気の中、私は静かに茫然としていた。
するとドアの向こうで母の声がした。
「ねぇ、これもいる?」
と、聞こえたと同時にまたドアが少しだけ開き、疲れ果てた私に差し出されたのは大きなイカだった。
そして、もう勘弁してくれ…と、思ったことろで夢は覚めたのであった。
くだらなくてごめんなさい<(_ _)>



カテゴリ合ってますか…。
主婦日記とかには混ぜてもらえない気がするんですよ。
カテゴリ分けって難しい。音楽関連のトコに行ってもいいかなぁ。
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