見上げた空にきれいな月を見た夜

今日は三日月だった。
大きく輝く星が二つ、そして美しい三日月が一つ。
私が住んでいる町から車で10分程の距離だけれど、隣の市であるこの場所で空を見上げると、大昔の愚かな青春時代を思い出す。
仲のいい友人がハマっていた危ない男がこの土地に住んでいた。
キレた歌うたいだった。
当時の私は優しくてマトモなギタリストの彼氏がいたけれど、旺盛な好奇心には勝てず、その男ともよく遊んだ。
携帯電話のない当時、真夜中の2時に平気で家の電話に電話をよこすようなキレたその男のおかげで、私は電話の前で寝るしかないという不便な生活を余儀なくされた。
「てめーいい加減にしろ!」
と、私が本気で怒っても、やめない。
真夜中であろうが何であろうが、電話をかけてきて
「今から来い。」と言う。
何度、ふざけんな!と言ったことだろう。
でも私は、優しくてマトモな彼氏の前では「マトモな彼女」を一生懸命演じていたから(当時の友人はあれで?と言うだろうが)、そのキレた男のありえない行動に、自分の中の狂気が共鳴してしまうのもなんとなく感じとっていた。
気が向かなければ行かないけれど、気が向くと真夜中にバイクに乗って奴の元へと走る。私たちは朝まで酒を飲んだり、外へ出掛けて星を眺めたり、ギターを弾いたり、歌を歌ったり、真夜中に好きなことをして時間を過ごした。奴は私をキレた女だと言ったけれど、私はそいつの方が100倍ヤバイと思った。でも、お互いを止めることをしないその遊び方が気持ちよくて、いつも無茶なことばかりしていた。シャレにならないことをシャレにする悪い遊びを心から楽しんだ。
「こんなに悪い女は見たことがねぇな。」
と、奴が言う。私はその言葉に、もしかして本来の私の質は決して「マトモ」ではないのかもしれないと思ったのをよく覚えている。私は彼氏をとても好きだったけれど、自分の中の何かをずっと隠し通して付き合っていたからか、常に発散するような場所を作ってしまっていた。見せられない部分があるから疲れるのに、でも好きになった人には「マトモな女」として見られたい。恋愛においてよく分かっていない部分もあったからかもしれないけれど、常におかしなジレンマを抱えていたような気がする。
本来、キレた男が好きなんだろうけれど、昼間の生活の中ではそんなわけのわからない男を抱えて落ちて行くのだけは無理で、自分は自分のやりたいことのために向上したかった。
でもそうやって、何と呼んでいいのかわからない時間を過ごしていた事実。
それは、お互いに魅かれあった部分があったからだ。
だから、一時的で刹那的な時間になる。それなりに切なくて、でも確実にそこに感情はあった。奴と一緒に見上げた月がきれいすぎて、切なかったのが忘れなれないのも、きっとそんな空間だったからだろう。今日の三日月を見て思い出してしまったくらいだ。
でもそもそも、そのキレた男にハマっていたのは友人だったのだ。結局、友人が泊りに来た日の真夜中に、奴から電話がかかってきて、動揺が隠しきれず(若かったなぁ)友人にバレてしまった。泣きじゃくる友人をなだめて(でも謝らないのが最悪)、タクシー代を渡して奴の元に行かせた。
「ちょっと遊んだだけだよ、私らが最悪の最低なんてのはおまえも分かってんじゃん。」
友人はそんな私の言葉で納得する。私の気質も奴の気質もよく知っている彼女だからこそ、理解できたんだろう。
「そうだね、おまえらそっくりだもん。」
そういって、友人は笑った。
基本的に打たれ強い性格をしているマゾい女だから、私の傍にも奴の傍にも居られるんだと思った。彼女にはかなわない。
ふと、ジーパンのポケットに手を入れたら、キレた男と遊んだ時のコインゲームのコインが一枚入っていた。誰にも知られない関係だったから、記念品なんてこんなもんかな…と一瞬考えて、
「ねぇ、これあげる。」
と、言って友人にコインを差し出した。彼女は不思議そうな顔をしてコインを受け取り、呼んだタクシーに乗って奴の元へ行った。
私は彼女を見送ってから、二階の自分の部屋へ行きベットに寝転がった。
久しぶりに電話の前でなく、自分のベットで寝られることをちょっとだけよかったと思ったけれど、終止符のあっけなさの寂しさの方が大きかったのは仕方がない。
失うものは突然でも突然でなくても失う。失いたくないとは思わないけれど、感情はそうそう追いつかない。
「でも…ま、いっか。」
ポツリと独り言を言って、そう言える自分を好きだと思った。
それが多少無理をしている姿だったとしても別によくて、月曜日の学校で何事もなかったかのように普通の生活を送ることに自信もあったから、そのまま眠りについた。
所詮私の神経なんてそんなものだ。
そんなものなんだけど、今は歳をとったからかな。もうこれと同じことができるとは思えない。あの頃の自信はもうない。
人は歳を重ねて経験を増やし、できる事が増えて行くと同時に、逆にできなくなることも多いと思う。それでもいいと最近思うようになった。だってもう人生の折り返し地点なんてとっくに過ぎているんだから。でも、ままならなくてもきっと何に対しても「余裕だよ。」って言って見せるくらいの器量はある。
だって、きっと一生ロックンローラーなんだろうから。
飲み込む系はヤメロと私が言えた義理じゃないが、言いたい。

ま、こういうのも、アリってコトでですね、多面的に行きましょうよ。
(大爆笑してる奴がいるのは解ってます)
今日は「飲み込む」というきわどいキーワード。
朝、母がめずらしく神妙な顔つきで私に話しかけてきた。
「ねぇ、今忙しい?ちょっと話してもいいかな?」
いつもは私が忙しくたって忙しくなくたって全く関係ない母が、そんなことを言うこと自体おかしい。一体何が起きたんだろうと、私も神妙な顔つきで
「どうしたの?」
と、聞き返した。
すると母は、
「飲んではいけないものを飲んでしまった…。」と、シリアスなドラマのワンシーンように呟いた。
過去、飲んではいけないものをいろいろと飲み込んだ(お金とか、絵具とか、濃縮3倍めんつゆとか)ことのあるいわゆる経験者の私だが、母の「飲んではいけないもの」とは一体何か。私以上いヤバイものだろうかと考えてしまう。
私は恐る恐る聞いた。
「…何…を…?」
母は、眉間にしわを寄せ、何かを諦めるような表情で私を見た後、少しだけうつむいて、
「歯」
と、小さく答えた。
もっと恐ろしいものを想像していた私は思わず、
「はぁ?」
と、かなり間抜けな顔で聞き返したが、母は笑いごとではないと言いたげな真剣な顔で私を見る。そして私に厳しい口調で語る。
「歯っていってもね、差し歯なんだから。先っぽが画びょうみたいに尖がってるんだよ?どこの医者に行けばいいんだ、歯医者?内科?外科?肛門科ではないよね、今飲んだばかりだからまだその辺には到達していないな。それよりそんなにうまく肛門まで進むとは限らない。早くしないと心臓に刺さって死ぬかもしれない。」
なるほど、先っぽが尖っているのか。それはもしかしたら私が飲み込んだ200円よりも大変な問題かもしれない。100円玉は何枚飲み込もうとも身体の内部に刺さって危険な部分はない。100円玉が丸くて私は幸せ者であったと思ったが、それよりも母。差し歯が刺さって死んじゃったらどうしよう、大変だ、今すぐ医者に電話しなくては。
しかし、医者は9時からで、8時になったばかりの時間ではまだ電話に応答してくれなかった。それでも一刻を争うのだからもしかしたら救急車を読んだ方がいいだろうか。と、私がそんなことを考えていると、さすが親子としかいいようのないタイミングで母が、
「救急車呼ぼう。」
と、言った。
私も一瞬、それしかないのか…とも思ったが、その前にまずネットで調べることを思いついた。思いつくほどのことでもないくらい、毎日毎日ネット関連の仕事をしているくせに、こんな時の私はやっぱり40過ぎのレトロ人間だと思ってしまう。現代の事情で生きているようで、実際の頭の中はそうでもないということに気づかされる。
日々、どうでもいいことに気づいたり気付かなかったり。それは非日常な出来事によって実感できる心の栄養ではあるが、できればこういう心配事はやめてもらいたい。
とにかく、ネットで差し歯を飲み込んでしまった時の症例について調べてみることにした。「差し歯 飲み込む」で検索してみたところ、いくつかの事例がヒットした。その内容によると、ぴんぴんしているなら大丈夫だということであった。どの記事を読んでもそんなふうに書いてある。
何で?だって画びょうみたいに尖ってるんだよ?
という疑問が私の頭の中では竜巻のようにぐるぐる渦巻くばかりだ。
一体どういうことだろう。人体の不思議には疎い私だけれども、誰もが画びょうなんて飲んじゃったら大騒ぎするのではないだろうか。だから画びょうみたいな差し歯でも大騒ぎしてもいいんじゃないだろうか。不思議で不思議でどうしようもないけれど、とりえずその検索結果を母に伝えた。
すると母は、
「そんなワケないじゃん、だって尖がってるんだよ、画びょうと一緒だよ!刺さる!」
と、これまた私の思考にそっくりな言動しかしないのである。やはりDNAとは恐ろしい。思考の脈絡はほぼ一緒で、私は完全にこの女のDNAとやらで出来ていることが明らかに解ってしまうのであった。
それにしてもネットでの検索結果から、救急車を呼んではいけないような気がしてきた私は、心配ではあるけれど、とにかく医者に電話して聞いてみるのが一番だという意見を母に言ってみた。あと20分もたてば受付の人がきっと電話にでるはずだから、医者の意見を聞いてから行動に移すことにしようと提案したのだ。
すっかりと元気をなくしてテンションが地の底に落ちている母は、素直に私の意見に従うことを了承した。それでもその20分さえ、気が気でない様子で、
「なんか具合が悪くなってきた。刺さったかも…」
と言って自室のベットへ横になりに行った。
たしかに身体に異物を抱えている時の、あの何とも言えない気持ち。私には分かるし、解りすぎる。しかも先っぽが尖っているなんて、考えただけでどこかが痛み出しそうだ。しかし飲み込んでしまったものは仕方ない。差し歯なんて飲むなよ…と言ったところでどうしようもないのだ。そんな時はもちろん言いたいその言葉を伏せて元気づけるのが人としての優しさだと思う。
でも…ワタシが中学校のトキ、散々言われたあの光景がよみがえる…
「どーしてそんなもん飲むんだバカ!アホ!マヌケ!
100円二枚も飲むなんて信じられない!腹切って出すしかないワ、ボケ!」
…と怒る母に、魂のほとんど抜けた私…
幼かった私は、それなりに恐ろしい思いをした。
(思い出し御腹立ち)
だけど、よくよく考えるとあの頃の母より今の私の方が歳をとっている。人間、歳をとると丸くなるというが、全くその通りで、今の母にそんな鬼のような言葉を投げかけようとは思えない。
フフフ…私も年を取ってまあるくなった。
そんな考え事をしているうちに20分が過ぎ、とりあえず歯のトラブルということで歯医者に連絡。すると歯医者も「異常がないのであればしばらく様子を見てください。」との事だった。
人体の不思議、摩訶不思議。
本当に本当に、画びょうみたいな先っぽ大丈夫なの????
だって、胃とか腸とか傷つかないの?
最後の試練ともいえる肛門付近だって心配じゃない?
差し歯が縦長のウ○コに対して運よく盾に配置されて固まればすんなり来るだろうけど、万が一横に配置されて、しかも中心部よりちょっぴり横にずれたりとかして、針部分の先っぽだけ顔をだしてたりしたらどーなんの!
痛いんじゃないですか!
尖ったものをケツから出すなんてムボーだ!
と、思うのは私だけか???
オーマイゴット、私は一体どんな言葉を今、母にかけてあげればいいのだ…。
思考の迷宮に入ろうとする私の前に、自室から出てきてしょんぼりとにたたずむ母。ふと目があうと、私は優しく声を掛けた。
「医者はとりあえず様子みろって…。
で、ウ○コしたら、割り箸で探してみな。宝を…楽しいかもしれないぜ。」
母は、一瞬カッと目を見開き、私を睨みつけた後、
「ウ○コなんてかき回したくもない。寝る。」
と言ってまた自室へと去って行った。
仕方ねーじゃん、確認とれなきゃ嫌なのアンタだろ…と、言ってやろうとも思ったけど、優しさたっぷりな私は黙って割り箸をトイレに置いてやった。油性ペンで「宝探し棒」と書いてやろうかと思ったけどそこまで暇人でもないし、母の逆鱗に触れると仕事がし辛くなるから機嫌は損ねない方がいいだろう。
そして何事もないことを祈ろう。
心配ではあるけれど、とりあえずは大丈夫だと医者が言ったのだから、今の私には、いや誰にだって祈ることしかできない。
そんな金髪バカヤローの日々。
P.S
皆様、誤飲にはお気を付け下さい。
本当はすごっくショックだったし、怖い。
いつしか時代について行けなくなるんだろう…
とは、思っています。ちゃんと思っています。思っていましたし、ある程度覚悟はしているつもりでした。でも私はショックを受け、そして恐ろしいとまで思ってしまい、普通にしてはいられないのです。だからもうダメなんでしょう。それを受け入れられないということは、私はもう時代について行けなくなってしまった…そう言っても過言ではないと思います。
何が???
店員さんが。
昔、店員さんは普通でした。でも数年前、カリスマ店員という言葉を聞いたあたりから、店員さんがものすごくオカシイと思います。おかしさは続行しています。でも今を生きる若者はおかしいとは思わないから、そういう世の中なんだということも分かっています。
私は絶対にオバサンなんですけれども、オバサンは認めるから、あれは絶対オカシイと言わせて下さい。いや、もしオバサンじゃなかったとしてもオカシイと言うのではないだろうか…と思えてきて仕方がありません。そんな不気味な世界…。
ちょっと若い子向けの服が売っている店内に足を運ぶと、どこからか聞こえてくる不気味な声。カンだかい声を鼻にかけて、語尾を伸ばしながら微妙に音程をあげて行く。
「いらっしゃいませ~(↑)~(↑)~(↑)~(↑)~。」
今現在の私は、彼女らが「いらっしゃいませ。」と言っていることが分かりますが、私は初めてそのカンだかい「いらっしゃいませ。」を聞いた時、「いらっしゃいませ。」とは聞こえませんでした。たぶん、たまたま初めて聞いた店員さんの声とか話し方がかなり特徴的だったからだとは思うのですが、絶対に「いらっしゃいませ。」とは聞こえなかったのです。
では何と聞こえたのか…(恐ろしいですよ)。
「にらっちゃいまぷぅううううう~~~~ん。」
と、聞こえました。
もーびっくりしましたよ、本気で。だってそう聞こえるんですから。鼻の穴は完全にふさがってるんじゃないの?っていうくらい鼻にかかったカンだかい声で、何度も何度も店内に響き渡るように叫んでいるのです。
え?何?何なの?なんかコエー。
一体なんの呪文?
何で「にらっちゃいまぷーん。」て叫ぶの?
いや、私をバカにしてるの?
だって「ぷぅううう~~ん。」って、はっきり言ってるよ?
どう表現したらよいのか分かりませんがなんとなく「危険」だと思いました。
私はきょろきょろと店内を見渡しながら、挙動不審になるしかありません。
そして何度も聞いているうちに、なぜかその呪文のような言葉に妙な恥ずかしさを覚え、何にもしていないのに恥ずかしくてうつむいてしまいました。ただ私の傍で「にらっちゃいまぷーん。」と叫ぶ女がいるというだけのハナシなんですが、もう恥ずかしくていてもたってもいられなくなりました。そんな私にはお構いなしにその店員さんは、何度も何度もその私が恥ずかしくてたまらない「にらっちゃいまぷーん。」を連発するのです。
なんなんだ!?この店は!不快!
とにかくこの場所から一刻も早く離れなければ私の精神はもたない。本当は今すぐにでもこの恥ずかしくて痒くて痒い眉間の辺りにナイフでも突き刺すか、痒くて痒いような気がするおでこのあたりをカタイ床にガンガン打ちつけるか、それか、恐ろしさのあまりその店員さんを締め上げるかの3択のどれかを実行してしまいそうなのです。
逃げよう、こんな時は逃げるしかないんだ。そう自分に言い聞かせ、その場を去ろうとしたその時でした。今度は別の店員さんが出てきて、カンだかい声で言ったのです。
「いらっしゃいませぇぇぇえええええええん。」と。
その時、全てを理解しました。
「にらっちゃいまぷーん。」はもしかしなくとも「いらっしゃいませーん。」だ。
あの女の鼻の詰まり方と独特な言い方で変なふうに聞こえるんだ、と。
それが「いらっしゃいませ。」であると理解すると、不思議と恥ずかしさは失せて行きました。何だかわからなかったから、言葉としては恥ずかしい系に属するような発音だったので、勝手に恥ずかしい気持ちになっていましたが、正体が「いらっしゃいませ。」だと分かればカンには触りますけれども平気です。
平気にはなりましたが、今度は何となく、意味もなく、
「納得できない。」という気持ちになっていきました。
どう考えてもオカシイ。だってあの女は呪文にしか聞こえないような音を発しているじゃないか。私は今すぐあの女に、
「おまえの「いらっしゃいませーん」は、「にらっちゃいまぷーん」と聞こえるぞ。罪だからヤメロ。」
と、言いたくて言いたくてたまらないのです。
「大声で「ぷーん」とかスゲェこと言ってんじゃねぇっ、可笑しすぎるだろ、オカシイぞ、変だよ変!」
と、言ってやりたくてやりたくてたまらないのです。
…しかし大人な私は我慢しました。若者は若者の世界で生きているんだ。ここは金髪バカヤローの出る幕ではないのだ。彼女がこれからどのような接客をし、どのような服を売り、どのように仕事を終え、どのようなプライベートを過ごすのか…。そしてどのような男と恋に落ち、どのように傷つき、どのような別れ話をするのか…。しかし彼氏と別れた直後でもしっかりと仕事はしなくてはいけませんから、彼女は「にらっちゃいまぷぅ~ん。」と叫ぶ。どのような哀愁の「にらっちゃいまぷぅ~ん。」であろうか…。
―聞きたい―
たぶん私が男であったなら、その哀愁の「にらっちゃいまぷぅ~ん。」が聞きたいがために、彼女に声をかけてしまうのかもしれません。結婚詐欺師のように。でも金はいらない、哀愁の「にらっちゃいまぷぅ~ん。」を聞かせろ。という完全な変態として。
彼女をボーゼンと見つめつつ、そんなことばかりを真剣に考えてしまいました。が、彼女の出っ歯にキモピンクの口紅がくっついているのを見た瞬間冷めました。(※キモピンクとは私にとって気持ち悪いと思う独特のピンク いずきち用語。)
私が男なら残念ながらきっと起たない。鼻づまりの歯紅女はスタイルが良くても無理だ。仕方がない、諦めよう…。
そして私は服を買わずにその店から立ち去ったのでした。
と、常々単独行動の好きな私は、こうやって自由なことを思って街をふらつく怪しい人です。だけど、本当はみんながそういうことを思っているのだとばかり思っていました。でもどうやら違うらしい。じゃぁ、人は一体何を考えて街を歩くのだろうか。
謎。
時代についていくどころか、良く考えたら「人」さえよくわかっていない私です。
今はもうその店員さんたち独特の「いらっしゃいませ~。」に慣れましたが、それでもやっぱりまじましと観察すると「絶対オカシイ。ギャハハハハハハハ!」と突然叫びたくなってしまいます。
「いいの?ホントに何の疑問も感じない?????」
と、金髪バカヤローに思われていますよ、店員さん……ま、店員さんにとってはどうでもいいことです。私だって思われてるはずですから「あいつ変。」と。
そういうのを「相容れない」と言うんでしょう。時代、感覚、感性、いつも世界はごちゃまぜで、キレイじゃないからそれがいいんです。キレイじゃないからキレイなところをズームするんです。少し離れて見つめれば、もうぐちゃぐちゃにかき混ぜたくなるような色をしているのになぁ…と、思ってしまいます。
それにしても、私は本当に怖かったでんですよ、あの「にらっちゃいまぷーん。」なんの恐怖ですかね。
とは、思っています。ちゃんと思っています。思っていましたし、ある程度覚悟はしているつもりでした。でも私はショックを受け、そして恐ろしいとまで思ってしまい、普通にしてはいられないのです。だからもうダメなんでしょう。それを受け入れられないということは、私はもう時代について行けなくなってしまった…そう言っても過言ではないと思います。
何が???
店員さんが。
昔、店員さんは普通でした。でも数年前、カリスマ店員という言葉を聞いたあたりから、店員さんがものすごくオカシイと思います。おかしさは続行しています。でも今を生きる若者はおかしいとは思わないから、そういう世の中なんだということも分かっています。
私は絶対にオバサンなんですけれども、オバサンは認めるから、あれは絶対オカシイと言わせて下さい。いや、もしオバサンじゃなかったとしてもオカシイと言うのではないだろうか…と思えてきて仕方がありません。そんな不気味な世界…。
ちょっと若い子向けの服が売っている店内に足を運ぶと、どこからか聞こえてくる不気味な声。カンだかい声を鼻にかけて、語尾を伸ばしながら微妙に音程をあげて行く。
「いらっしゃいませ~(↑)~(↑)~(↑)~(↑)~。」
今現在の私は、彼女らが「いらっしゃいませ。」と言っていることが分かりますが、私は初めてそのカンだかい「いらっしゃいませ。」を聞いた時、「いらっしゃいませ。」とは聞こえませんでした。たぶん、たまたま初めて聞いた店員さんの声とか話し方がかなり特徴的だったからだとは思うのですが、絶対に「いらっしゃいませ。」とは聞こえなかったのです。
では何と聞こえたのか…(恐ろしいですよ)。
「にらっちゃいまぷぅううううう~~~~ん。」
と、聞こえました。
もーびっくりしましたよ、本気で。だってそう聞こえるんですから。鼻の穴は完全にふさがってるんじゃないの?っていうくらい鼻にかかったカンだかい声で、何度も何度も店内に響き渡るように叫んでいるのです。
え?何?何なの?なんかコエー。
一体なんの呪文?
何で「にらっちゃいまぷーん。」て叫ぶの?
いや、私をバカにしてるの?
だって「ぷぅううう~~ん。」って、はっきり言ってるよ?
どう表現したらよいのか分かりませんがなんとなく「危険」だと思いました。
私はきょろきょろと店内を見渡しながら、挙動不審になるしかありません。
そして何度も聞いているうちに、なぜかその呪文のような言葉に妙な恥ずかしさを覚え、何にもしていないのに恥ずかしくてうつむいてしまいました。ただ私の傍で「にらっちゃいまぷーん。」と叫ぶ女がいるというだけのハナシなんですが、もう恥ずかしくていてもたってもいられなくなりました。そんな私にはお構いなしにその店員さんは、何度も何度もその私が恥ずかしくてたまらない「にらっちゃいまぷーん。」を連発するのです。
なんなんだ!?この店は!不快!
とにかくこの場所から一刻も早く離れなければ私の精神はもたない。本当は今すぐにでもこの恥ずかしくて痒くて痒い眉間の辺りにナイフでも突き刺すか、痒くて痒いような気がするおでこのあたりをカタイ床にガンガン打ちつけるか、それか、恐ろしさのあまりその店員さんを締め上げるかの3択のどれかを実行してしまいそうなのです。
逃げよう、こんな時は逃げるしかないんだ。そう自分に言い聞かせ、その場を去ろうとしたその時でした。今度は別の店員さんが出てきて、カンだかい声で言ったのです。
「いらっしゃいませぇぇぇえええええええん。」と。
その時、全てを理解しました。
「にらっちゃいまぷーん。」はもしかしなくとも「いらっしゃいませーん。」だ。
あの女の鼻の詰まり方と独特な言い方で変なふうに聞こえるんだ、と。
それが「いらっしゃいませ。」であると理解すると、不思議と恥ずかしさは失せて行きました。何だかわからなかったから、言葉としては恥ずかしい系に属するような発音だったので、勝手に恥ずかしい気持ちになっていましたが、正体が「いらっしゃいませ。」だと分かればカンには触りますけれども平気です。
平気にはなりましたが、今度は何となく、意味もなく、
「納得できない。」という気持ちになっていきました。
どう考えてもオカシイ。だってあの女は呪文にしか聞こえないような音を発しているじゃないか。私は今すぐあの女に、
「おまえの「いらっしゃいませーん」は、「にらっちゃいまぷーん」と聞こえるぞ。罪だからヤメロ。」
と、言いたくて言いたくてたまらないのです。
「大声で「ぷーん」とかスゲェこと言ってんじゃねぇっ、可笑しすぎるだろ、オカシイぞ、変だよ変!」
と、言ってやりたくてやりたくてたまらないのです。
…しかし大人な私は我慢しました。若者は若者の世界で生きているんだ。ここは金髪バカヤローの出る幕ではないのだ。彼女がこれからどのような接客をし、どのような服を売り、どのように仕事を終え、どのようなプライベートを過ごすのか…。そしてどのような男と恋に落ち、どのように傷つき、どのような別れ話をするのか…。しかし彼氏と別れた直後でもしっかりと仕事はしなくてはいけませんから、彼女は「にらっちゃいまぷぅ~ん。」と叫ぶ。どのような哀愁の「にらっちゃいまぷぅ~ん。」であろうか…。
―聞きたい―
たぶん私が男であったなら、その哀愁の「にらっちゃいまぷぅ~ん。」が聞きたいがために、彼女に声をかけてしまうのかもしれません。結婚詐欺師のように。でも金はいらない、哀愁の「にらっちゃいまぷぅ~ん。」を聞かせろ。という完全な変態として。
彼女をボーゼンと見つめつつ、そんなことばかりを真剣に考えてしまいました。が、彼女の出っ歯にキモピンクの口紅がくっついているのを見た瞬間冷めました。(※キモピンクとは私にとって気持ち悪いと思う独特のピンク いずきち用語。)
私が男なら残念ながらきっと起たない。鼻づまりの歯紅女はスタイルが良くても無理だ。仕方がない、諦めよう…。
そして私は服を買わずにその店から立ち去ったのでした。
と、常々単独行動の好きな私は、こうやって自由なことを思って街をふらつく怪しい人です。だけど、本当はみんながそういうことを思っているのだとばかり思っていました。でもどうやら違うらしい。じゃぁ、人は一体何を考えて街を歩くのだろうか。
謎。
時代についていくどころか、良く考えたら「人」さえよくわかっていない私です。
今はもうその店員さんたち独特の「いらっしゃいませ~。」に慣れましたが、それでもやっぱりまじましと観察すると「絶対オカシイ。ギャハハハハハハハ!」と突然叫びたくなってしまいます。
「いいの?ホントに何の疑問も感じない?????」
と、金髪バカヤローに思われていますよ、店員さん……ま、店員さんにとってはどうでもいいことです。私だって思われてるはずですから「あいつ変。」と。
そういうのを「相容れない」と言うんでしょう。時代、感覚、感性、いつも世界はごちゃまぜで、キレイじゃないからそれがいいんです。キレイじゃないからキレイなところをズームするんです。少し離れて見つめれば、もうぐちゃぐちゃにかき混ぜたくなるような色をしているのになぁ…と、思ってしまいます。
それにしても、私は本当に怖かったでんですよ、あの「にらっちゃいまぷーん。」なんの恐怖ですかね。



カテゴリ合ってますか…。
主婦日記とかには混ぜてもらえない気がするんですよ。
カテゴリ分けって難しい。音楽関連のトコに行ってもいいかなぁ。
立方晶窒化炭素 IKプロデュース♪
魔除け・邪気避け系、ブラックテイストパワーストーンショップ
インクルージョンイズム

テーマ: ガンバレ!!私ヽ(*´∀`*)ノ
ジャンル: ブログ
似合いそうなTシャツ
偶然その辺で知り合いに会い、時間もあったのでティータイム。
彼女はすごく…無邪気な人だと思います。
いい言い方をすれば。
女性特有の可愛らしさ?はあります。でもその会話の中身はわりと薄っぺらいので、私はいつもあんまりお話を聞いていないという極悪人です。
選択肢があって、全てにおいて「こーすればこーなる」が一瞬にして見えるような事柄においても、「どうしよう。」等と言うもんですから、適当野郎の私は、「どうでもいいんじゃないですかね?」と言うのです。
すると彼女は、
「んもう、冷たいんだからぁ~。」
と、口をとがらせて怒ったマネをするのです。
可愛いっちゃ可愛いです、ケド、ね。
そんな彼女は、ある日私のために、買い物をしたそうです。
「ワイルドでいずきちさんの好きそうなカッコイイTシャツなの、でも今日会えると思ってなかったから、置いてきちゃった。」
と、笑顔でいいます。私は「あーうん、ありがとうございます。じゃ今度楽しみにしてます。」と彼女に言いました。
彼女はそのTシャツの素晴らしさを私に語り出します。
真っ黒で、カッコよくて、ツノとかついてて、ゴッツくて、ワイルドで、シルバーで、目つきが悪くて、大きくて、ゴンっとしてて…
と、こんな言い方をするもんですから、私の方もさっぱりワケがわからなくなります。わかりますか、コレで。私はわかりません。どんなのもを想像していいか全くわかりませんでした。
なので、当然、
「ナニソレ、ぜんぜんわかんないですけど?」
と、言いました。
すると彼女は、
「たしか、アレ、なんだっけな?ああ、たしかパイパン?だと思った。」
そう言いました。
え……?私の聞き間違いでなければ、怪しげな用語に聞こえたような気がするけど、ホント?でも、恐ろしくて聞き返せない。
いぶかしげな顔で首をひねる私。そんな私と目が合うと彼女は、
「ホラ、あの牛の強そうなの。」
そう言ったのです。
バイソン。

彼女はバイソンと言いたかったことがすぐにわかりました。でも、先程彼女は絶対にバイソンとは言っていません。私の聞き間違いでなければ、パイパンと言ったのです。その辺が気になってしまった私は、バイソンという正しい答えがわかっているのにも関わらず、
「何て言うヤツですか?」
と、聞きました。
「たぶん、パイパンだったと思う。」
彼女ははっきりとそう言いました。
スゴイ。これはスゴイ。スゴイけどどうしようと思うくらいツッコミ辛い。それは牛のことじゃないぞと教えてあげるのはいいけど、じゃあナンダと言われたら、真面目な顔で説明するのもちょっとカンベンしてほしい。それにしても、ちょっとヤバイくらい可笑しい。だんだん可笑しさが込み上げてきた。耐えられなくなる前にこの話題を打ちきってしまおう。
そう思って別の話題を提供しようとする私に、彼女が先に言いました。
「絶滅しそうなんだよね、アフリカパイパンだっけ?」
…もうダメでした。私の頭の中には、真っ黒なアフリカンな女性が素っ裸で登場し、ズンドコズンドコと踊っています。
一つも合ってない。合ってないにもほどがあるじゃないか。なんとなくは似てるのかもしれないけど、ぜんぜん違うじゃないか。それに、アフリカ!アメリカでなくアフリカなんて、どこまでマニアック!ああ、どうしよう、面白すぎる。もうツッコミようがないくらいだけど、笑いますよ、私は。
アハハハハハハハハハ!と豪快に笑う私をキョトンとした顔で見ている彼女がまた面白くて、涙がでるほど笑い続けてしまいました。
そして、
「アフリカパイパンのTシャツ、楽しみにしてます。」
と、ちょちょぎ出る涙を拭きつつ言いました。(←ちょっと悪人
これはヨーロッパw
てか、私にはアメリカバイソンのTシャツが似合うのだろうか…。
彼女はすごく…無邪気な人だと思います。
いい言い方をすれば。
女性特有の可愛らしさ?はあります。でもその会話の中身はわりと薄っぺらいので、私はいつもあんまりお話を聞いていないという極悪人です。
選択肢があって、全てにおいて「こーすればこーなる」が一瞬にして見えるような事柄においても、「どうしよう。」等と言うもんですから、適当野郎の私は、「どうでもいいんじゃないですかね?」と言うのです。
すると彼女は、
「んもう、冷たいんだからぁ~。」
と、口をとがらせて怒ったマネをするのです。
可愛いっちゃ可愛いです、ケド、ね。
そんな彼女は、ある日私のために、買い物をしたそうです。
「ワイルドでいずきちさんの好きそうなカッコイイTシャツなの、でも今日会えると思ってなかったから、置いてきちゃった。」
と、笑顔でいいます。私は「あーうん、ありがとうございます。じゃ今度楽しみにしてます。」と彼女に言いました。
彼女はそのTシャツの素晴らしさを私に語り出します。
真っ黒で、カッコよくて、ツノとかついてて、ゴッツくて、ワイルドで、シルバーで、目つきが悪くて、大きくて、ゴンっとしてて…
と、こんな言い方をするもんですから、私の方もさっぱりワケがわからなくなります。わかりますか、コレで。私はわかりません。どんなのもを想像していいか全くわかりませんでした。
なので、当然、
「ナニソレ、ぜんぜんわかんないですけど?」
と、言いました。
すると彼女は、
「たしか、アレ、なんだっけな?ああ、たしかパイパン?だと思った。」
そう言いました。
え……?私の聞き間違いでなければ、怪しげな用語に聞こえたような気がするけど、ホント?でも、恐ろしくて聞き返せない。
いぶかしげな顔で首をひねる私。そんな私と目が合うと彼女は、
「ホラ、あの牛の強そうなの。」
そう言ったのです。
バイソン。

彼女はバイソンと言いたかったことがすぐにわかりました。でも、先程彼女は絶対にバイソンとは言っていません。私の聞き間違いでなければ、パイパンと言ったのです。その辺が気になってしまった私は、バイソンという正しい答えがわかっているのにも関わらず、
「何て言うヤツですか?」
と、聞きました。
「たぶん、パイパンだったと思う。」
彼女ははっきりとそう言いました。
スゴイ。これはスゴイ。スゴイけどどうしようと思うくらいツッコミ辛い。それは牛のことじゃないぞと教えてあげるのはいいけど、じゃあナンダと言われたら、真面目な顔で説明するのもちょっとカンベンしてほしい。それにしても、ちょっとヤバイくらい可笑しい。だんだん可笑しさが込み上げてきた。耐えられなくなる前にこの話題を打ちきってしまおう。
そう思って別の話題を提供しようとする私に、彼女が先に言いました。
「絶滅しそうなんだよね、アフリカパイパンだっけ?」
…もうダメでした。私の頭の中には、真っ黒なアフリカンな女性が素っ裸で登場し、ズンドコズンドコと踊っています。
一つも合ってない。合ってないにもほどがあるじゃないか。なんとなくは似てるのかもしれないけど、ぜんぜん違うじゃないか。それに、アフリカ!アメリカでなくアフリカなんて、どこまでマニアック!ああ、どうしよう、面白すぎる。もうツッコミようがないくらいだけど、笑いますよ、私は。
アハハハハハハハハハ!と豪快に笑う私をキョトンとした顔で見ている彼女がまた面白くて、涙がでるほど笑い続けてしまいました。
そして、
「アフリカパイパンのTシャツ、楽しみにしてます。」
と、ちょちょぎ出る涙を拭きつつ言いました。(←ちょっと悪人
これはヨーロッパw
てか、私にはアメリカバイソンのTシャツが似合うのだろうか…。
そこに消えない正円ができた理由を私は知っている
それなりに忙しかったんだ。月末は!
ハァハァ…く、苦しい…というカンジの月末でございました。
とりあえず、8月になる準備を終えまして、今、一息つこうと思ったけれど、やろうと思えばやらなきゃいけないことが実は腐るほどあるという、実に幸せな忙しい毎日…。
だけど語ろう、あの日のことを。
そうだ…あれは確か8月だった…。
【そこに消えない正円ができた理由を私は知っている】
そんなタイトルにしよう。だってその通りだもん。そんなカンジで、そこに消えない円形ができた理由を語りたいと思います。
あれは私がまだ20代、とある会社に勤めていた時のことです。その会社では毎朝、社長を交えての朝の会議なるものをやっておりました。会議とは言っても、朝礼のようなもので、社内にいる全員を応接フロアに集めてなんだかんだとお話をするというものでした。(二日酔いなのに会議前に生グレープジュースを一気飲みして、会議中にそのフロアで豪快に吐き出してしまい、ものすんごく怒られたことがあります。グレープジュースは紫ですのである意味、地獄絵図でした。)
まぁとにかくそこに社員はみんな集められるのです。そんなに大きな会社ではありません。多い日でも20人くらいでしょうか。
その20人は、自分のデスクから椅子を持ち寄ります。椅子は下にコロコロがついている、超事務!みたいなヤツでいろは灰色です。もちろんくるくる回ります。その椅子は持ち上げようと思うとけっこう重たいので私はいつも持ち上げず、コロコロがついているわけですから、キロキロと音をさせながら押して運んでいました。

そんな朝の日課。なんの問題もなく(いや二日酔いとかあるけど)過ごしていたのです。
そこへある日、新入社員が入ってきました。私よりも少し年上の爽やかなのにワイルド風なイケメン。このイケメンはきっと世間ではイケメンなんでしょうけど、私の好みではありません。まず、色黒が嫌いですから、その日焼けなの?自グロなの?みたいな色がダメ。それから眉毛が男らしすぎ。それから筋肉もつき過ぎ。それから短髪も無理!と、そんなに文句をつけられる筋合いは全くないとは思うのですが、君なんかに興味はもてませんよというタイプでした。
そして極めつけは、そのカッコつけ方。東京生まれの東京育ちがどーしたって?だから?と、言いたくなってしまうほど、ホントは東京じゃねーんじゃねぇかと疑いたくなるほど、地元が東京であることにこだわり、最近の流行りがどーのこーのとあらゆる先端にこだわり、スーツのブランドなんて聞いてねぇよ、六本木のクラブなんて興味ねぇよ、おまえの使ってるワックスもぜんぜん興味なんかないんだバカヤローと思わせられる人でした。
そんなカッコつけ野郎の彼、名前を山崎くんと言いました。
山崎くんが入社して1週間くらい過ぎたころでしょうか。朝の会議が始りますから社員のみんなは椅子を運びます。私のデスクはフロアから一番遠い場所にありましたので、みなさんがぞろぞろと椅子を転がしていく一番最後をついていくというような感じになります。そして私の前に山崎くんがいました。
キロキロゴロゴロ…と椅子を移動する音。みんな重たい椅子を持ち上げたくありませんから、おかしな音をさせながらも背もたれ部分を押して移動させます。でも山崎くんはこの日、椅子を転がしてはいませんでした。私は後姿を見ているだけですが、彼は椅子の背もたれ部分をしっかりと持って運んでいるようでした。まぁ、そんな椅子の運び方に文句をつけるような心の狭い私ではありませんから、なんとも思わなかったのですが…。
思わなかったのですが…。
その後、私の目の前で事件は起きました。
フロア部分に次々と社員の皆さんが到着し、椅子に座って社長を待ちます。私も一番後ろですが、座りました。私が座るのと同時くらいに山崎くんが椅子を床に置いた時、その椅子は
クラリ
と倒れたのです。
椅子が倒れたのです。椅子なのに。
私の目の前で倒れた椅子に、釘付けで驚いているのは私と山崎くんだけでした。位置的に私と山崎くんしか目撃しなかったようです。
なぜ倒れたんだろう?と椅子の足部分を見ると、ありません。椅子の足がないのです。椅子全体をよくよく見てみると、信じられないことに、背もたれと座る部分から伸びた鉄がニョッキリと真っすぐに伸びているだけなのです。その下にあるべきヒトデにコロコロのついたような足と呼べる物体がなかったのです。
山崎くんは、椅子を持ちあげて持ってきました。持ちあげた時に、自分のデスクに足だけ残して持ってきてしまったのです。
まぁ、気付かずにそんなことをしてしまったらそれなりには恥ずかしいです。でも、普通に「あ、椅子の上だけ持ってきちゃった」とか言って爽やかに失敗を認めれば、これはそんなに最上級の恥ずかしさというものでもありません。ですから当然そういう行動にでるのだろうと思ったのです。
それに目撃していたのは私だけですし、この事実に気が付いているのも私だけなのですから、後ろにいる私にそう言えばいいんです。それで済むはずなんです、普通は。
それなのに山崎くんは、まず、無言で私を睨みつけ、それは色黒なのに真っ赤になってますか?というカンジのエンジ色のような顔色になりました。すごい形相で私は一瞬びっくりしましたが、いや、ここは私がビビってどうする、と思い直して睨み返してやりました。
すると山崎くんは、今度は泣きそうな表情で悔しそうに倒れた椅子の上を私によこすのです。無言で。
差し出された足なし椅子はなぜか受け取るしかないような空気でしたので、こちらも無言で受け取りました。その直後、山崎くんは猛スピードで去って行きます。おそらく足をとりに行ったのでしょう。
短い鉄パイプに椅子らしきものがくっついた物体を持ち、立ち尽くす私。
その後、会議の始る直前に山崎くんは足だけを持って戻り、急いで足を床に置いたらまた無言で私の手から短い鉄パイプに椅子らしきものがくっついた物体を奪い取って、足にハメました。
社長がやって来て朝の会議が始ります。私は目の前に座る山崎くんの後ろ姿を見ていました。
今、一体何が起きて、私は何で山崎くんの椅子を持っていなくてはいけなかったんだ?と、普通に考えてしまいます。いや、別にいいんですよ、「持ってて」と言われれば持ってますよ、そのくらい。だけどそんな無言で押しつけられたってねぇ…。
そして私の頭は会議中、だんだんと冷静にこの出来事について考えます。
山崎くん、君はこの事実を隠したいと思っているね?
ものすごく恥ずかしいと思っているね?
私以外の誰にも見られなかっただろうかと心配しているね?
私にはいったいどんな面白い言い訳とかしてくれんの?
すっごい恥ずかしいことすんのねってつっこんだらどんな顔するの?
そして私はどのタイミングであんたを笑い飛ばせばいいのかしら?
と、私の中の悪魔が今か今かと目覚めを待ちます。(最低)
実際面白かったから今すぐにでも笑えますが、でも今は会議中。社長にこの間グレープジュースの件でみっちり怒られたばっかりだから問題行動はNG。おかしくても耐えられる、大丈夫、耐えよう。と、冷静に考えていました。
そして会議が終わったら山崎くんにどんな声をかけようかと思いつつ、何気なく彼の椅子がある床の辺りを見ました。
ぐふぉぉっ!
と、とたんに私は変な音を立ててしまいます。
その床は薄いベージュのカーペットでしたが、そこにはくっきりと黒に緑系のまざったようなギトギトの油で書かれたような、正円が描かれていたのです。
それは、間違いなく山崎くんが短い鉄パイプに椅子らしきものがくっついた物体を置いた跡です。鉄パイプの先っぽにくっついているギトギト油なのです。
しかもこんなにくっきりと。まあるい。
ヤバイ、どうしよう、面白い。イカン、ツボった。
私は笑いを堪えるために握りこぶしを作り、力を入れ、そしてなるべく山崎くんを見ないようにしました。心の中で落ち着け、笑うな、落ち着くんだ、と自分に言い聞かせました。
でもダメです。ふつふつをおかしさは込み上げてきます。そしてまた無意識にその床を見てしまいました。一瞬でまた目を逸らしますが、ふと、「これは落ちない。ジュースとは違う。」等ということを考えてしまうのです。耐えられなくなった私は、また咳をするかのように「ゴヘゴヘ」と笑いを混ぜつつのおかしな音を立てます。
そしてその時、山崎くんが「うるさいな。」と言わんばかりの迷惑そうな顔で振り返りました。そんな山崎くんと目が合うと、とたんに彼が許せなくなりました。
私がこんな目に合っているのは全て山崎くんのせいです。それなのにそんな迷惑そうな顔をするなんていうことが許されるかコノヤロウ、おまえにも地獄を見せてやる。そう思った私は「私語はヤメロ」と社長に怒られるのを覚悟で、山崎くんの肩をトントンと二回叩き、再度振り返った彼に無言で床の正円を指差しました。
次の瞬間、
ぐふぃぉふっ
という山崎くんのものすごい怪しげな噴き出し音。
ヤッタ。ツボった。ザマァ見ろ。
でも私も可笑しい、どうしよう。耐えがたい。
グフグフ、クツクツ、ゴフゴフ
会議中、後ろの方で、変な音を立てつつ笑いを堪える異様な2人は、あとでみっちり社長の秘書のおっかないおばさまに怒られました。
そして、社長の秘書のお説教が終わり帰ろうとする私たち2人に、
「あら?なにこの丸。」
と、あの正円を指差した時、私たち2人はたぶん一瞬心が繋がりました。
ここで笑うな、絶対笑うな、ふざけているのかと再度怒られる!
2人の心が一つにはなりましたが、一つになってもどうにもならなくて、
ギョワハハハハハ!と笑いだしてしまい、再度怒られ、笑いつつもその正円については「知りません。」を2人で口をそろえて言い張りました。
怒られ終わってデスクに戻る時、小さな声で「ごめん。」と言った山崎くんに、本当はつっこみたいことはたくさんあったはずだけど「うん、アレ黙っとくから。」と、あの正円のできた理由を語らぬことを約束してやりました。
その日の夜は、裏路地にある小さな焼き鳥屋で飲みつつ爆笑している男女の姿があったのは言うまでもありません。
そこに消えない正円ができた理由を私は知っていた…まぁ、それだけのハナシですよ。
ふふふw
ハァハァ…く、苦しい…というカンジの月末でございました。
とりあえず、8月になる準備を終えまして、今、一息つこうと思ったけれど、やろうと思えばやらなきゃいけないことが実は腐るほどあるという、実に幸せな忙しい毎日…。
だけど語ろう、あの日のことを。
そうだ…あれは確か8月だった…。
【そこに消えない正円ができた理由を私は知っている】
そんなタイトルにしよう。だってその通りだもん。そんなカンジで、そこに消えない円形ができた理由を語りたいと思います。
あれは私がまだ20代、とある会社に勤めていた時のことです。その会社では毎朝、社長を交えての朝の会議なるものをやっておりました。会議とは言っても、朝礼のようなもので、社内にいる全員を応接フロアに集めてなんだかんだとお話をするというものでした。(二日酔いなのに会議前に生グレープジュースを一気飲みして、会議中にそのフロアで豪快に吐き出してしまい、ものすんごく怒られたことがあります。グレープジュースは紫ですのである意味、地獄絵図でした。)
まぁとにかくそこに社員はみんな集められるのです。そんなに大きな会社ではありません。多い日でも20人くらいでしょうか。
その20人は、自分のデスクから椅子を持ち寄ります。椅子は下にコロコロがついている、超事務!みたいなヤツでいろは灰色です。もちろんくるくる回ります。その椅子は持ち上げようと思うとけっこう重たいので私はいつも持ち上げず、コロコロがついているわけですから、キロキロと音をさせながら押して運んでいました。

そんな朝の日課。なんの問題もなく(いや二日酔いとかあるけど)過ごしていたのです。
そこへある日、新入社員が入ってきました。私よりも少し年上の爽やかなのにワイルド風なイケメン。このイケメンはきっと世間ではイケメンなんでしょうけど、私の好みではありません。まず、色黒が嫌いですから、その日焼けなの?自グロなの?みたいな色がダメ。それから眉毛が男らしすぎ。それから筋肉もつき過ぎ。それから短髪も無理!と、そんなに文句をつけられる筋合いは全くないとは思うのですが、君なんかに興味はもてませんよというタイプでした。
そして極めつけは、そのカッコつけ方。東京生まれの東京育ちがどーしたって?だから?と、言いたくなってしまうほど、ホントは東京じゃねーんじゃねぇかと疑いたくなるほど、地元が東京であることにこだわり、最近の流行りがどーのこーのとあらゆる先端にこだわり、スーツのブランドなんて聞いてねぇよ、六本木のクラブなんて興味ねぇよ、おまえの使ってるワックスもぜんぜん興味なんかないんだバカヤローと思わせられる人でした。
そんなカッコつけ野郎の彼、名前を山崎くんと言いました。
山崎くんが入社して1週間くらい過ぎたころでしょうか。朝の会議が始りますから社員のみんなは椅子を運びます。私のデスクはフロアから一番遠い場所にありましたので、みなさんがぞろぞろと椅子を転がしていく一番最後をついていくというような感じになります。そして私の前に山崎くんがいました。
キロキロゴロゴロ…と椅子を移動する音。みんな重たい椅子を持ち上げたくありませんから、おかしな音をさせながらも背もたれ部分を押して移動させます。でも山崎くんはこの日、椅子を転がしてはいませんでした。私は後姿を見ているだけですが、彼は椅子の背もたれ部分をしっかりと持って運んでいるようでした。まぁ、そんな椅子の運び方に文句をつけるような心の狭い私ではありませんから、なんとも思わなかったのですが…。
思わなかったのですが…。
その後、私の目の前で事件は起きました。
フロア部分に次々と社員の皆さんが到着し、椅子に座って社長を待ちます。私も一番後ろですが、座りました。私が座るのと同時くらいに山崎くんが椅子を床に置いた時、その椅子は
クラリ
と倒れたのです。
椅子が倒れたのです。椅子なのに。
私の目の前で倒れた椅子に、釘付けで驚いているのは私と山崎くんだけでした。位置的に私と山崎くんしか目撃しなかったようです。
なぜ倒れたんだろう?と椅子の足部分を見ると、ありません。椅子の足がないのです。椅子全体をよくよく見てみると、信じられないことに、背もたれと座る部分から伸びた鉄がニョッキリと真っすぐに伸びているだけなのです。その下にあるべきヒトデにコロコロのついたような足と呼べる物体がなかったのです。
山崎くんは、椅子を持ちあげて持ってきました。持ちあげた時に、自分のデスクに足だけ残して持ってきてしまったのです。
まぁ、気付かずにそんなことをしてしまったらそれなりには恥ずかしいです。でも、普通に「あ、椅子の上だけ持ってきちゃった」とか言って爽やかに失敗を認めれば、これはそんなに最上級の恥ずかしさというものでもありません。ですから当然そういう行動にでるのだろうと思ったのです。
それに目撃していたのは私だけですし、この事実に気が付いているのも私だけなのですから、後ろにいる私にそう言えばいいんです。それで済むはずなんです、普通は。
それなのに山崎くんは、まず、無言で私を睨みつけ、それは色黒なのに真っ赤になってますか?というカンジのエンジ色のような顔色になりました。すごい形相で私は一瞬びっくりしましたが、いや、ここは私がビビってどうする、と思い直して睨み返してやりました。
すると山崎くんは、今度は泣きそうな表情で悔しそうに倒れた椅子の上を私によこすのです。無言で。
差し出された足なし椅子はなぜか受け取るしかないような空気でしたので、こちらも無言で受け取りました。その直後、山崎くんは猛スピードで去って行きます。おそらく足をとりに行ったのでしょう。
短い鉄パイプに椅子らしきものがくっついた物体を持ち、立ち尽くす私。
その後、会議の始る直前に山崎くんは足だけを持って戻り、急いで足を床に置いたらまた無言で私の手から短い鉄パイプに椅子らしきものがくっついた物体を奪い取って、足にハメました。
社長がやって来て朝の会議が始ります。私は目の前に座る山崎くんの後ろ姿を見ていました。
今、一体何が起きて、私は何で山崎くんの椅子を持っていなくてはいけなかったんだ?と、普通に考えてしまいます。いや、別にいいんですよ、「持ってて」と言われれば持ってますよ、そのくらい。だけどそんな無言で押しつけられたってねぇ…。
そして私の頭は会議中、だんだんと冷静にこの出来事について考えます。
山崎くん、君はこの事実を隠したいと思っているね?
ものすごく恥ずかしいと思っているね?
私以外の誰にも見られなかっただろうかと心配しているね?
私にはいったいどんな面白い言い訳とかしてくれんの?
すっごい恥ずかしいことすんのねってつっこんだらどんな顔するの?
そして私はどのタイミングであんたを笑い飛ばせばいいのかしら?
と、私の中の悪魔が今か今かと目覚めを待ちます。(最低)
実際面白かったから今すぐにでも笑えますが、でも今は会議中。社長にこの間グレープジュースの件でみっちり怒られたばっかりだから問題行動はNG。おかしくても耐えられる、大丈夫、耐えよう。と、冷静に考えていました。
そして会議が終わったら山崎くんにどんな声をかけようかと思いつつ、何気なく彼の椅子がある床の辺りを見ました。
ぐふぉぉっ!
と、とたんに私は変な音を立ててしまいます。
その床は薄いベージュのカーペットでしたが、そこにはくっきりと黒に緑系のまざったようなギトギトの油で書かれたような、正円が描かれていたのです。
それは、間違いなく山崎くんが短い鉄パイプに椅子らしきものがくっついた物体を置いた跡です。鉄パイプの先っぽにくっついているギトギト油なのです。
しかもこんなにくっきりと。まあるい。
ヤバイ、どうしよう、面白い。イカン、ツボった。
私は笑いを堪えるために握りこぶしを作り、力を入れ、そしてなるべく山崎くんを見ないようにしました。心の中で落ち着け、笑うな、落ち着くんだ、と自分に言い聞かせました。
でもダメです。ふつふつをおかしさは込み上げてきます。そしてまた無意識にその床を見てしまいました。一瞬でまた目を逸らしますが、ふと、「これは落ちない。ジュースとは違う。」等ということを考えてしまうのです。耐えられなくなった私は、また咳をするかのように「ゴヘゴヘ」と笑いを混ぜつつのおかしな音を立てます。
そしてその時、山崎くんが「うるさいな。」と言わんばかりの迷惑そうな顔で振り返りました。そんな山崎くんと目が合うと、とたんに彼が許せなくなりました。
私がこんな目に合っているのは全て山崎くんのせいです。それなのにそんな迷惑そうな顔をするなんていうことが許されるかコノヤロウ、おまえにも地獄を見せてやる。そう思った私は「私語はヤメロ」と社長に怒られるのを覚悟で、山崎くんの肩をトントンと二回叩き、再度振り返った彼に無言で床の正円を指差しました。
次の瞬間、
ぐふぃぉふっ
という山崎くんのものすごい怪しげな噴き出し音。
ヤッタ。ツボった。ザマァ見ろ。
でも私も可笑しい、どうしよう。耐えがたい。
グフグフ、クツクツ、ゴフゴフ
会議中、後ろの方で、変な音を立てつつ笑いを堪える異様な2人は、あとでみっちり社長の秘書のおっかないおばさまに怒られました。
そして、社長の秘書のお説教が終わり帰ろうとする私たち2人に、
「あら?なにこの丸。」
と、あの正円を指差した時、私たち2人はたぶん一瞬心が繋がりました。
ここで笑うな、絶対笑うな、ふざけているのかと再度怒られる!
2人の心が一つにはなりましたが、一つになってもどうにもならなくて、
ギョワハハハハハ!と笑いだしてしまい、再度怒られ、笑いつつもその正円については「知りません。」を2人で口をそろえて言い張りました。
怒られ終わってデスクに戻る時、小さな声で「ごめん。」と言った山崎くんに、本当はつっこみたいことはたくさんあったはずだけど「うん、アレ黙っとくから。」と、あの正円のできた理由を語らぬことを約束してやりました。
その日の夜は、裏路地にある小さな焼き鳥屋で飲みつつ爆笑している男女の姿があったのは言うまでもありません。
そこに消えない正円ができた理由を私は知っていた…まぁ、それだけのハナシですよ。
ふふふw
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